広島地方裁判所 昭和62年(ワ)1399号 判決 1993年10月12日
原告
藤本敬三
外二四名
原告ら訴訟代理人弁護士
阿左美信義
同
佐々木猛也
同
津村健太郎
同
坂本宏一
同
石口俊一
同
廣島敦隆
同
我妻正規
同
胡田敢
阿左美信義訴訟復代理人弁護士
笹木和義
津村健太郎訴訟復代理人弁護士
池上忍
同
山口格之
被告
西日本旅客鉄道株式会社
右代表者代表取締役
角田達郎
右訴訟代理人弁護士
樋口文男
主文
一 被告は、原告藤本敬三、同村上雅春、同東城行宏、同小松謙二、同細川完勝、同阪倉一夫、同竹中信二、同藤野雅俊、同伊藤忠晴、同西岡広伸、同森淳、同隅正晴、同松永美砂男、同峰岡敏夫、同藤本明、同浅野裕、同豊田信文、同吉本建治、同福本正彦、同塚本勝彦、同中村雄二、同西海信利、同吉本栄、同久保将樹に対し、別紙一覧表の右各原告指名欄に対応する各金額欄記載の金員及び右各金員に対する昭和六二年七月四日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告山田禮正の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二五分し、その一を原告山田禮正の負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
被告は、原告らに対し、別紙一覧表の各原告氏名欄に対応する各金額欄記載の金員及び右各金員に対する昭和六二年七月四日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
原告らは、いずれも被告の社員であるが、昭和六二年度の夏季期末手当(以下「本件夏季手当」という。)の支給を受けた際、被告が原告らの成績率を五パーセント減率査定し、原告らに対して別紙一覧表の各原告氏名欄に対応する各金額欄記載の金員(各原告が本来支給されるべき本件夏季手当の五パーセント相当分)を支給しなかったことは考課査定権の濫用に該当し、又は不当労働行為として不法行為に該当するとして、夏季一時金(以下「一時金」という。)請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、右各金員の支払を求めた事案である。
一争いのない事実など
1 当事者(争いがない)
(一) 被告は、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の分割民営化に伴って、昭和六二年四月一日、「日本国有鉄道改革法」並びに「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」に基づき、国鉄が経営していた旅客鉄道事業のうち、本州の西日本地域における事業を引き継いで設立された株式会社である。
(二) 原告らは、もと国鉄の従業員であったが、右同日、被告に雇用され、別紙一覧表の各「原告氏名」欄に対応する各「所属」欄記載の職場において、各「職名」欄記載の業務に従事していた。
2 夏季期末手当に関する規定等(争いがない)
(一) 被告の就業規則(以下「就業規則」という。)一三〇条は、社員の賃金に関する事項は賃金規程(昭和六二年四月人達第二〇号)の定めるところによると規定している。
(二) 被告の賃金規定(以下「規定」という。)一四六条は、期末手当の支給額につき、一から期間率を控除したうえ成績率を加算又は控除し、これに基準額を乗じて算定するものとし、右基準額は別に定めるところによると規定している。
(三) 規程一四七条は、右期間率は調査期間内における欠勤期間により減額する割合とすると規定している。
また、規程一四八条は、右成績率は調査期間内における勤務成績により増額又は減額する割合とし、成績率を減額する基準として、調査期間内における懲戒処分及び勤務成績に応じて、出勤停止は一〇パーセント減とし、減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者は五パーセント減とする旨規定している。
(四) 国鉄労働組合(以下「国労」という。)と被告は、昭和六二年六月一九日、本件夏季手当の基準額等に関する協定を締結したが、これによれば、前記基準額は、同月一日現在における辞令面による基本給、都市手当及び扶養手当の月額の合計額に2.1を乗じて得た額とし、調査期間は、同年四月一日から同年五月三一日まで(以下「本件調査期間」という。)とするとされた。
3 被告の原告らに対する減率査定(争いがない)
原告らは、本件調査期間において、いずれもその期間率は零であり、かつ減給、戒告、訓告のいずれの処分も受けていなかったが、被告に、本件夏季手当の査定において、原告らの成績率を五パーセント減率査定(以下「本件減率査定」という。)して、昭和六二年七月三日、各原告に対し、五パーセント相当分である別紙一覧表の各「原告氏名」欄に対応する各「金額」欄記載の金員を減額して本件夏季手当を支給した。
4 原告らの労働組合活動(<書証番号略>、弁論の全趣旨)
原告らは、いずれも昭和六二年四月一日以前から国労の組合員であり、国労広島地方本部(以下「国労広島地本」という。)に所属している。
国鉄の分割民営化が行われる以前、国鉄職員中に占める国労組合員の割合は高い数字を示していたが、分割民営化が行われる過程において、右の数字は激減していった。原告らは、右のような状況における本件調査期間中、国労組合員として積極的に労働組合活動を行い、また、その多くの者が別紙一覧表の各「原告氏名」欄に対応する「国労役員名」欄記載の組合役員などの地位にもあった。
二争点
本件における争点は、本件減率査定が被告の考課査定権の濫用に該当するか否か、及び本件減率査定が不当労働行為として不法行為に該当するか否かである。
1 原告らの主張
(一) 考課査定権の濫用
(1) 原告らの本件調査期間内における勤務成績は、普通以上であった。
(2) 期末手当の成績率は、被告の考課査定部分ではあるが、合理的基準及び手続により考課査定されるべきであるところ、被告は、本件夏季手当の査定において、原告らを不当に低く考課査定したもので、本件減額査定は、考課査定権を濫用したもので無効というべきである。
(二) 不当労働行為
(1) 被告は、設立以来、国労を嫌悪し敵視する行動を繰り返していたが、本件減率査定は、右の行動の一環として、原告らを含む国労の役員及び活動家に対し集中的になされたものである。
すなわち、被告の広島支社(以下「広島支社」という。)における本件夏季手当の査定対象者は七五九四名であったところ、このうち減率査定をうけた者は一二四名であって、右査定対象者中に占める割合は1.6パーセントにすぎなかったが、広島支社における国労組合員五三〇名のうち減率査定をうけた者は五三名であり、国労組合員に関しては、一〇パーセントにものぼる社員が減率査定を受け、更に、減率査定を受けた総員一二四名に対する減率査定を受けた国労組合員五三名の割合は、四〇パーセントを超えていた。
(2) 本件減率査定においては、国労組合員であることを表象する組合バッジの着用行為が減額の理由とされた。
しかし、組合バッジの着用行為は、組合員が当該組合の一員であることを顕示して組合意識を高め、組合の団結保持に資する目的を有するものであって、団結権の一態様であるから、組合員が組合バッジを着用しても、それによって職場の規律を乱したり業務運営の妨げとなるなどの特段の事情が認められない限り、正当な組合活動というべきである。また、組合バッジは、闘争手段として用いられるリボンやワッペンなどとは異なり、通常、その着用によって職場規律を乱したり業務運営の妨げとなるような危惧を招来する虞はない。
したがって、原告らによる組合バッジの着用という組合活動は、就業時間中であっても、就業規則に違反するものとされるべきでない。それにもかかわらず、被告が組合バッジの着用行為を減額の理由としたのは、正当な労働組合活動をした組合員を不利益に取り扱い、かつ、国労の組織を弱体化又は破壊しようと企図したものである。
(3) したがって、本件減率査定は、原告らが国労組合員であること若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもってなされた不利益取扱であり、かつ、国労に所属する原告らを不利益に取り扱うことにより国労の弱体化を図るものであるから、被告の国労に対する支配介入であり、労働法七条一号、三号の不当労働行為に該当する。
(4) 右のような被告の不当労働行為意思に基づく行為は不法行為に該当するところ、原告らは、右行為により、それぞれ減額された一時金相当額の損害を被った。
2 被告の主張
(一) 被告は、社員の業務遂行能力、執務態度、業務成果等企業への貢献度などを総合的に評価して、勤務成績の良、不良を考課査定し、本件夏季手当における成績率を決定した。
右業務遂行能力は、業務知識、処理能力、指導力に着眼して評価した。右執務態度は、勤怠度、規律性、協調性、責任性、積極性、自己啓発意欲に着眼して評価した。右業務成果は、仕事の質、仕事の量、創意工夫に着眼して評価した。
そして、被告は、国鉄改革により設立された新会社であり、国鉄において、職場規律の著しい弛緩がその経営破綻の重要な原因となったことに鑑み、特に、就業規則等の職場規律違反行為の有無を重視して評価した。
(二) 成績率決定の方法とプロセス
(1) 本件夏季手当の支給に関して、広島支社に勤務する社員の成績率の決定権者は、広島支社長であった。同支社長は各業務機関の長(以下「現場長」という。)に対し、本件調査期間における各社員の勤務成績を客観的かつ具体的に把握するよう指示した。
(2) 広島支社管内の各現場長は、前記(一)のとおり業務遂行能力、執務態度、業務成果等企業への貢献度などに着眼して、本件調査機関における各社員の勤務成績を把握し、同支社人事課に報告した。
(3) 広島支社人事課担当者は、各現場長から報告を受けたうえ、その意見を直接聴取し、更に、勤務成績の評価に関する各業務機関の間における不均衡を是正するなど十分な検討を行って、増減率適用者案を同支社総務部長に提出し、その後、同支社長が本件夏季手当における社員の成績率を決定した。
(三) 原告らの考課査定
被告は、以下の事由から、原告らは勤務成績が良好でない者に該当すると判断して、その成績率を五パーセント減率する考課査定をした。
(1) 原告藤本敬三
イ 列車乗務員として車掌業務に従事しているが、中堅社員であるにもかかわらず、後輩等の指導などに全く不熱心であり、協調性がない。
ロ 車掌としての列車扱い及び社内放送に対する取り組み姿勢が甘く、営業成績においても、列車内で発行する乗車券類すなわち車内補充券の売上枚数が組別(原告は、構成員二五名の四組に所属していた。)で最下位であるなど業務成績が乏しく、業務全般に対して積極性に欠ける。
ハ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的で意欲もない。
ニ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反省がなく、一向に改めない。
(2) 原告山田禮正
イ 業務全般に対して積極性がない。
ロ 職場の執務室の壁に「団結」と赤書したタオルを張りつけるなど定められた場所以外に組合掲示物を掲示し、上司から注意されても除去せず、企業秩序に対する認識に欠ける。
ハ 組合バッジを常に制服の襟に着用する一方、氏名札着用を遵守しなかったため、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されたが、これに反抗的態度を示し、一向に改めない。
ニ 同原告の社員としての非常識な言動や自覚の欠けた行為は、他の社員に悪影響を及ぼしている。
ホ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
(3) 原告村上雅春
イ 業務全般に対して積極性がない。
ロ 他所属の勤務時間中の社員の所に出かけ業務外の打合せを行うなど職場規律に対する認識に欠ける。
ハ 上司の業務上の指示などに対して反抗的態度を示すことが多く、社員としての円満な常識や自覚に欠ける。
ニ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
ホ 組合バッジを常に制服の襟に着用する一方、氏名札着用を遵守しなかったため、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されたが、これを無視したり反抗的態度を示し、一向に改めない。
(4) 原告東城行宏
イ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的で、業務全般に対して勤労意欲、積極性に欠ける。
ロ 上司の業務指示・命令に対して、常に反論し反抗的態度をとるため職場の業務に支障を来すことがある。
ハ 勤務時間中、組合新聞を机の上に置いているので、上司が注意したところ、応ずる様子がなく、社員としての常識及び自覚に欠ける。
ニ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反抗的態度を示し、反省がなく一向に改めない。
(5) 原告小松謙二
イ 列車乗務員として車掌業務に従事しているが、車掌歴は長く、車掌区内の中堅社員であるにもかかわらず、本件調査期間中、収入金及び車内補充券の発行枚数が区内で最下位であり、経験三か月の新任車掌以下の営業成績であるなど、業務全般に対して積極性に欠ける。
ロ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的であり、意欲もない。
ハ 車掌として乗務中、列車発車の際、駅長の停止指示に従わないで列車を進行させるという運転保安上危険な行為を行い、列車乗務員として基本的な認識に欠ける。
(6) 原告細川完勝
イ 旅行センターの業務に従事しているが、売上の拡大等に自ら工夫し取り組む姿勢がなく、抗議を行うことのみに熱心で、業務全般については、極めて不熱心で積極性に欠ける。
ロ 勤務時間中、組合事務所に立ち入るなど勤務の厳正、職場規律の保持に対する認識に欠ける。
ハ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司が就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導しても反論し、反抗的態度を示し、反省がなく一向に改めない。
(7) 原告阪倉一夫
イ 上司から勤務する駅の清掃作業の指示を受けても行わず、重ねて指示されると反抗的態度を示すなど業務全般に対して積極性に欠け、また、屋外作業に草履をはいて出てくるなど安全性の認識に欠ける。
ロ 接客従事員として端正な頭髪や服装などに対する心掛けが足りないため、上司が服装整正に努めるよう注意指導するが、反省がなく、一向に改めない。
ハ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
(8) 原告竹中信二
イ 業務全般に対して積極性に欠ける。
ロ 勤務時間中、休憩室で横になっているなど、中堅社員であるにもかかわらず職責に対する自覚、規律に対する認識が欠如し、勤労意欲に欠ける。
ハ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても、反省せず一向に改めない。
(9) 原告藤野雅俊
イ 業務全般に対して積極性に欠ける。
ロ 勤務時間中、無断で職場を離れて昼食の準備をしたり、朝の点呼に煙草を吸いながら出席するなど、職場規律に対する認識や社員としての自覚に著しく欠ける。
ハ 朝の点呼時に、上司に対して「朝礼の時、くだらん話をせずもっと重要な話をしたらどうだ。」などと馬鹿にした発言をしたり、業務指示に対しても反抗的態度で勤労意欲に欠ける。
ニ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規律等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反抗的態度を示し、反省がなく一向に改めない。
(10) 原告伊藤忠晴
イ 上司の業務指示に対して反抗的態度で、業務全般に対して勤労意欲、積極性に欠ける。
ロ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反省がなく、一向に改めない。
(11) 原告西岡広伸
イ 業務上の指示、命令に対してその反応と動作が極めて緩慢であり、業務全般に対して勤労意欲、積極性に欠ける。
ロ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反論し、一向に改めない。
ハ 再三にわたる注意指導にもかかわらず、タイムカードの打刻を失念するなど、服務の厳正、規律に対する認識に欠ける。
(12) 原告森淳
イ 業務全般に対して勤労意欲、積極性に欠ける。
ロ 業務上、指導的立場にあるにもかかわらず、責任性が希薄である。
ハ 安全帽の紐をかけないで作業をしたり、氏名札の未着用、安全帽の携行の失念などが目立ち、上司から服装の整正を再三、注意指導されても反省せず、責任者としての基本的な認識、自覚及び指導性に欠ける。
(13) 原告隅正晴
イ 業務全般に対して積極性に欠ける。
ロ 上司の業務上の指示、命令に対して反抗的態度で、勤労意欲に欠ける。
ハ 検査班詰所の業務用の掲示板に国労の機関紙や批判文書を掲示するなど定められた場所以外に組合掲示物を掲示し、これに対する上司の注意にも反発し、企業秩序、職場規律の認識、社員としての自覚に欠ける。
ニ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
(14) 原告松永美砂男
イ 原告は、保線区のレール溶接の業務に従事しているが、業務全般に対して、自主性、積極性、勤労意欲に欠ける。
ロ 上司の意見を聞かず、注意すると反発するなど自己中心的で協調性に欠けるため、日常の業務習得に支障を来す状況にあり、社員としての自覚に欠ける。
ハ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
(15) 原告峰岡敏夫
イ 業務全般に対して積極性に欠ける。
ロ 車両係として車両の検修等の業務に従事しているが、赤シャツを着用して作業をするなど、中堅社員でありながら社員としての自覚と職務の厳正に対する認識に欠ける。
ハ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反抗的態度を示し、反省がなく一向に改めない。
(16) 原告藤本明
イ 業務全般に対して積極性に欠ける。
ロ 全員で行う朝の体操、点呼等の指差確認等の際、態度や言動などが極めて悪い。
ハ 勤務時間中、無断で持ち場を離れ事務室で休憩していたり、休憩時間が過ぎて勤務時間になっているにもかかわらず、検修庫で寝ていたりすることがあり、上司が注意すると無言のまま業務に就くなど、勤労意欲がないのみならず、職場の規律に対する認識、社員としての基本的な自覚に欠ける。
(17) 原告浅野裕
イ 中堅社員であるにもかかわらず、後輩等に対する指導性、協調性に欠ける。
ロ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
ハ みどりの窓口担当時、氏名札を掲出するとの被告の方針に反し、掲出しないことがしばしばあったほか、助役に現金引継書と現金を納付する際に確認不足による誤差がみられるなど、業務全般に対して意欲、積極性、責任性に欠ける。
ニ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反抗的態度を示し、反省がなく一向に改めない。
(18) 原告豊田信文
イ 営業係員として改札業務に従事しているが、接客従事員としての接客の際の声だし応対などの基本的な取り組みができていないなど全般に意欲や積極性に欠ける。
ロ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
ハ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反抗的態度を示し、反省がなく一向に改めない。
(19) 原告吉本建治
イ 営業係員として出札業務に従事しているが、業務全般に対して積極性に欠ける。
ロ 制服着用時、上着のボタンについて、上司が注意指導すると反抗的態度を示し、言葉使いが悪く、業務指示に対しても反抗的であり、社員としての自覚、常識に欠ける。
ハ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
ニ 上司の了解を得ず、社員の話し合いにより勝手に勤務変更を行ったり、勤務時間中に食事の準備をするなど、服務の厳正、現場規律の厳守などに関する企業人としての基本的な認識及び自覚に欠ける。
ホ 組合バッジを常に制服の襟に着用する一方、氏名札着用を遵守していないため、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されたが、これに反抗的態度を示し、反省がなく一向に改めない。
(20) 原告福本正彦
イ 上司の業務上の指示・命令に対し、しばしば反抗的な言動があり、接客従事員としての接客の際の声だし応対などの基本的な取り組みができていないなど業務全般に対して勤労意欲や積極性に欠ける。
ロ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的であり、意欲もない。
ハ 組合バッジを制服の襟に着用し、上司から注意されると一時取り外すものの、数日後、再び着用し、更に上司が注意しても反省がなく、一向に改めない。
(21) 原告塚本勝彦
イ 業務全般に対して、勤労意欲、積極性に欠ける。
ロ 勤務時間中に散髪に行くなど職場規律に対する認識、社員としての自覚に欠ける。
ハ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反論し、一向に改めない。
ニ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
(22) 原告中村雄二
イ 業務全般に対して積極性に欠ける。
ロ 上司に対して批判的・反抗的であり、社員としての自覚及び常識に欠ける。
ハ 売店等物品販売業務に従事中、「売れないので、立っているのがたいぎい、椅子が欲しい。」と発言するなど、勤労意欲に欠ける点が目立つ。
ニ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
ホ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反抗的態度を示し、一向に改めない。
(23) 原告西海信利
イ 上司の業務上の指示・命令に対して、反抗的、非協力的であり、上司に対して「おまえ」呼ばわりするなど、社員としての自覚及び常識に欠ける。
ロ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
ハ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反抗的態度を示し、一向に改めない。
(24) 原告吉本栄
イ 中堅社員であるにもかかわらず、後輩等に対する指導性、協調性に欠ける。
ロ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
ハ 組合バッジを常に制服の襟に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反論し、一向に改めない。
(25) 原告久保将樹
イ 物品販売業務に従事しているが、自己の仕事に全く興味を示さず、無愛想な応対が目立つなど全般的に勤労意欲や積極性に欠ける。
ロ 上司が仕事への取り組みや姿勢について改善するよう繰り返し注意指導するが、一向に改めないなど、接客従事員としての基本的な自覚と職務に対する認識に欠ける。
ハ 社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的である。
ニ 組合バッジを常に制服の襟に着用するばかりでなく、形状のより大きなバッジを制服の腹部付近に着用し、上司から就業規則等に定める服装の整正に努めるよう注意指導されても反論し、一向に改めない。
ホ 不精ひげを生やし長髪にするなど、接客従事員としての基本的な身だしなみが出来ておらず、上司から再三注意されても、無関心で改める様子が全くない。
(四) 組合バッジの着用について
就業規則二〇条は、社員は勤務時間中に被告の認める以外の胸章、腕章などを着用してはならない旨規定しているところ、原告らによる組合バッジの着用は右の規定に違反する。また、本件調査期間中、広島支社の社員のうち組合バッジを着用していた者はごく一部の社員であり、他の社員からは組合バッジの着用に対する批判と指導強化を求める声が上がっていた。発足して間もない会社において、企業内秩序を確立しつつ、円滑な業務の遂行と職場の明朗化を図ることは、企業の将来を左右する重要な問題であったから、被告は、本件調査期間中においても、組合バッジの着用を含めた服装整正義務違反者に対して繰り返し注意指導を行っていたところ、原告らは、これに従わなかったものであるから、この点が減額査定の一理由となることは当然のことである。
また、組合バッジの着用行為は、団結権の誇示を目的とするものであるから、勤務時間中の組合活動の禁止(就業規則二三条)にも違反し、更に、職務専念義務(就業規則三条)に違反するものである。
(五) したがって、原告らに対する本件減率査定は、被告の正当な裁量権の行使であり、被告に不当労働行為ないし考課査定権の濫用はない。
第三争点に対する判断
一まず、本件夏季手当における成績率の査定方法及び各原告に対する考課査定の内容について判断する。
1 <書証番号略>及び証人石本一生、同楊井昭夫、同小池智慧登、同岩清水則夫、同礒部隆行、同橋爪克洋、同奥田基博、同藤井良一、同津永泰彦、同毛保晃二、同長冨爲三、同高橋正信の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(一) 成績率査定の方法とプロセス
(1) 本件夏季手当の支給に関して、広島支社に勤務する社員の成績率の決定権者は支社長であったところ、同支社では、総務部人事課が支社内社員の業績評価及び賞与に関する職務を所管していた。
広島支社長は、人事課担当者を介して各現場長に対し、本件調査期間における各社員の勤務成績などに関する具体的事象を把握し、「勤務成績上位候補者調書」及び「勤務成績下位候補者調書」(以下「下位者調書」という。)などを作成するよう指示した。
下位者調書は、現場長が勤務成績が良好でないと判断した社員に関して作成するものであり、これには、当該社員につき勤務成績を下位と判断した理由及び減率の適用について現場長として考えていることを記載する箇所長意見欄、当該調査期間内における当該社員の社員としての自覚、勤労意欲、勤務態度などを具体的に記載する具体的事象欄、減率五パーセントという成績率の適用についての希望の有無を記載する欄、減率適用の希望順位を記載する上申順位欄などがあった。
(2) 被告が、社員の勤務成績の良・不良を考課査定し、本件夏季手当における成績率を決定した際、着眼した点は、社員の業務遂行能力、執務態度、業務実績であった。
すなわち、右業務遂行能力は、業務知識、遂行能力・注意力、判断力・指導力に着眼して評価することとされ、業務知識は、担当業務に関する知識は満足できるものであるか、業務知識の向上に努力しているかが評価の目安であり、遂行能力・注意力は、業務に対する集中力の有無、正確かつ迅速な処理能力の有無などが評価の目安であり、判断力・指導力は、相手の意見を良く聞いて理解するとともに自分の意見や主張を明確に伝えることができるか、後輩・同僚等に対して意欲的かつ親切な指導をしているか、相談ごとなどに対しても助言をしているかなどが評価の目安であった。
また、右執務態度は、規律性、責任性・積極性、協調性、自己啓発意欲に着眼して評価することとされ、規律性は、会社の方針及び就業規則に定める服務規律を良く理解し、他の模範となるよう遵守しているか、職場のルールや規律を守っているかが評価の目安であり、責任性・積極性は、与えられた仕事に対して前向きに取り組んでいるか、自分の役割立場を理解し期待に応えようと努力しているか、自分の仕事の質的向上、量的拡大を目指して意欲的に取り組んでいるかが評価の目安であり、協調性は、組織人としての自覚をもち、周囲との調和を保とうとしたか、同僚等と協力的に取り組んでいるかが評価の目安であり、自己啓発意欲は、自分の仕事に関する知識・技能を向上させようと努力しているか、他人の忠告(指導)に対して素直に耳を傾けているかが評価の目安であった。
更に、右業務成果は、仕事の質、仕事の量、創意工夫(問題意識)に着眼して評価することとされ、仕事の質は、お客様第一主義の考え方で業務を遂行しているか、日常の仕事の処理・結果は正確で信頼できるものであったか、与えられた仕事の出来ばえは期待し要求したレベルであったか、同じ誤りを繰り返すことはなかったかが評価の目安であり、仕事の量は、与えられた仕事は期待した時間内に処理できるか、仕事はてきぱき処理できたかが評価の目安であり、創意工夫は、自分の仕事に対して新しい改善、提案を行い効果があったか、仕事を進めるうえで有効な意見具申をしたか、仕事をしやすくする方法を考えているかが評価の目安であった。
そして、被告は、国鉄改革により設立された新会社であり、国鉄において、職場規律の著しい弛緩が指弾されたことに鑑み、前記評価に際しては、特に就業規則等の職場規律違反行為の有無が重視された。
(3) 広島支社管内の各現場長は、前記指示に基づき、本件調査期間における各社員の勤務成績を評価して同支社総務部人事課に報告した。
人事課担当者は、各現場長からの報告を受けたうえ、直接、各現場長の意見聴取を行い、更に内部討議などを経て候補者を絞り、その後、支社長が、本件夏季手当における社員の成績率を決定した。
(二) 成績率査定の結果
(1) 広島車掌区における原告藤本敬三の現場長は、同原告を含む一七名の社員につき下位者調書を作成し、同原告につき、減率適用の希望順位を第九位とした。
その結果、同原告を含む五名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(2) 広島保線区における原告山田禮正、同村上雅春、同松永美砂男の現場長は、同原告らを含む一五名の社員につき下位者調書を作成し、減率適用の希望順位につき、原告山田禮正を第一位、同村上雅春を第八位、同松永美砂男を第七位とした。
その結果、同原告らを含む約五名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(3) 広島建築区における原告東城行宏の現場長は、同原告を含む五名の社員につき下位者調書を作成し、同原告につき、減率適用の希望順位を第一位とした。
その結果、同原告のみが、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(4) 小郡車掌区宇部新川派出所における原告小松謙二の現場長は、同原告を含む九名の社員につき下位者調書を作成し、同原告につき、減率適用の希望順位を第四位とした。
その結果、同原告を含む二名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(5) 小郡駅における原告細川完勝、同阪倉一夫の現場長は、同原告らを含む一七名の社員につき下位者調書を作成し、減率適用の希望順位につき、原告細川完勝を第四位、同阪倉一夫を第六位とした。
その結果、同原告らを含む六名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(6) 幡生車両所における原告竹中信二、同藤野雅俊、同伊藤忠晴、同西岡広伸、同峰岡敏夫の現場長は、同原告らを含む二四名の社員につき下位者調書を作成し、減率適用の希望順位につき、原告竹中信二を第二位、同藤野雅俊を第一位、同伊藤忠晴を第四位、同西岡広伸を第七位、同峰岡敏夫を第一〇位とした。
その結果、同原告らを含む九名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(7) 三原保線区における原告森淳、同藤本明の現場長は、同原告らを含む九名の社員につき下位者調書を作成し、減率適用の希望順位につき、原告森淳を第五位、同藤本明を第一位とした。
その結果、同原告らを含む五名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(8) 広島運転所における原告隅正晴の現場長は、同原告を含む五五名の社員につき下位者調書を作成し、同原告につき、減率適用の希望順位を第四位とした。
その結果、同原告を含む八名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(9) 呉駅における原告浅野裕、同豊田信文、同吉本建治、同福本正彦の現場長は、同原告らを含む一四名の社員につき下位者調書を作成し、減率適用の希望順位につき、原告浅野裕を第一〇位、同豊田信文を第九位、同吉本建治を第八位、同福本正彦を第一一位とした。
その結果、同原告らを含む五名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(10) 広島電力区における原告塚本勝彦の現場長は、同原告を含む三名の社員につき下位者調書を作成し、同原告につき、減率適用の希望順位を第一位とした。
その結果、同原告のみが、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
(11) 広島駅における原告中村雄二、同西海信利、同吉本栄、同久保将樹の現場長は、同原告らを含む三四名の社員につき下位者調書を作成し、減率適用の希望順位につき、原告中村雄二を第一四位、同西海信利を第一三位、同吉本栄を第七位、同久保将樹を第一二位とした。
その結果、同原告らを含む一五名の社員が、本件夏季手当において五パーセントの減率査定を受けた。
二ところで、本件夏季手当など一時金の支給に際して行われる使用者による労働者の勤務成績の査定は、使用者の裁量的判断に委ねられるものであるが、これらが合理性を欠く場合には裁量の範囲を逸脱したものとなるところ、勤務成績が裁量の範囲を逸脱して不当に低く査定された場合には、当該一時金の支給額につき具体的な算定方法が定められている限り、当該労働者は、使用者に対し、右の算定方法によって算定した金額による一時金の支払請求権を有するものと解される。
また、使用者の行為が不当労働行為に該当する場合には、特段の事由のない限り、当該行為は不法行為としての違法性を肯定されるものと解される。
三そこで、各原告に対する本件減率査定が、被告による裁量の範囲を逸脱してなされたものであるか否か、及び不当労働行為に該当するか否かについて判断する。
1 被告は、原告小松謙二、同阪倉一夫、同森淳、同隅正晴、同松永美砂男、同藤本明を除く各原告につき、本件調査期間中に国労の組合バッジを着用していたことを本件減率査定の理由の一つとして主張しているところ、原告らは、被告が組合バッジの着用行為を減率の理由としたのは、正当な労働組合活動をした組合員を不利益に取り扱い、かつ、国労の組織を弱体化又は破壊しようと企図したものであって、不当労働行為に該当する旨主張するので、まず、この点について判断する。
(一) <書証番号略>によれば、就業規則二〇条は、社員は勤務時間中に被告の認める以外の胸章、腕章などを着用してはならない旨規定しているのが認められるところ、前記原告らが着用していた国労の組合バッジは、いずれも右の規定にいう胸章、腕章などに該当すると解される。
また、<書証番号略>によれば、就業規則二三条は、社員は被告が許可した場合のほか、勤務時間中に又は被告の施設内で組合活動を行ってはならない旨規定していることが認められるところ、前記のとおり、原告らは国労組合員として積極的に労働組合活動を行っていたのであり、国労の組合バッジは、組合員間の連帯感を高め国労組合員としての団結を維持しようとする目的のもとに着用されていたものと推認されるから、右着用行為は、国労組合員としての組合活動の一種であると認められる。
(二) ところで、一般に、労働者は、労働契約を締結することにより、所定の勤務時間中は使用者の指揮命令に服して稼働すべき職務専念義務を負うから、勤務時間中の組合活動は、原則として正当性を認められないというべきであり、前記就業規則二三条が勤務時間中の組合活動を原則として禁止している理由もこの点に存するものとみられる。しかし、少なくとも被告のような私企業における労働者の職務専念義務は、労働者がその労働契約に基づいて行うべき労働を誠実に履行する義務と解すべきであり、労働者がその精神的・肉体的活動のすべてを職務遂行に集中すべき義務とまでは解すべきでないから、本来の職務以外の行為であっても、労働を誠実に履行すべき義務と支障なく両立して使用者の業務を具体的に阻害することのない行為については、必ずしも職務専念義務に違反するものではないと解するのが相当である。
しかして、弁論の全趣旨によれば、国労の組合バッジは、縦約1.1センチメートル、横約1.3センチメートルの大きさであり、その表面には、黒地にレールマークが描かれNRUとローマ字が表示されていることが認められる。すると、右組合バッジは、いずれも小さく目立たないものであり、また、具体的な主義主張が表示されているものでもないから、その着用行為は、原告らの労働を誠実に履行すべき義務と支障なく両立し、被告の業務を具体的に阻害することのない行為であって、原告らの職務専念義務に違背するものではなく、更に、就業規則二三条の趣旨は前記のとおりであるから、実質的には同条が禁止する勤務時間中の組合活動にも該当しないというべきである。
なお、被告は、原告らの組合バッジなどの着用行為に対しては他の社員から批判と指導強化を求める声が上がっていた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(三) したがって、前記のような組合バッジの着用行為は、形式的には就業規則二〇条に違反するものの、保護されるべき正当な組合活動であると認められるのであり、これを本件減率査定の理由としたことは、勤務成績の査定の根拠として合理性を欠くものであり、更に、正当な労働組合活動をした組合員を不利益に取り扱うものとして、不当労働行為意思が存在するものと推認するのが相当である。
2 原告藤本敬三について
(一) <書証番号略>、証人長冨爲三の証言、藤本敬三本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄に入社して以来、昭和六〇年までは貨物列車の乗務員などとして勤務し、昭和六一年一一月までは広島車掌区において貨物列車の乗務員業務を主体とした列車掛兼車掌として勤務し、その後は広島車掌区に所属して旅客列車の車掌として勤務していたこと、したがって、昭和六二年四月当時、車掌業務を実質的に経験した期間は、昭和六一年一一月以降の半年程度にすぎなかったこと、広島車掌区に勤務する車掌は、勤務割表によって組分けされ、同原告は、その四組(構成員二五名)に所属していたところ、同原告が列車内で発行する車内補充券の売上枚数は、四組において最下位であったこと、同原告は、本件調査期間中、上着に国労の組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
被告は、同原告は中堅社員であるにもかかわらず、後輩等の指導などに全く不熱心であり、協調性がないと主張するが、前記のとおり、同原告の車掌としての経験は、本件調査期間中は未だ乏しく、後輩を指導するような状況になかったものと推認されるから、これを本件減率査定の理由とすることは相当でないというべきである。
また、被告は、同原告は社員意見発表、改善提案、収入拡大としてのフレッシュ二四キャンペーンなどへの参加を再三呼びかけても全く関心を示さないなど非協力的で意欲もないと主張する。しかし、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動は、本件調査期間中は未だ実施されていなかったことが認められ、また、社員意見発表、改善提案及び社員による増収活動への参加の呼びかけは、これが業務命令又は本来の業務の一部であったとは認められないから、単なる呼びかけにすぎず、これに参加しなかったことをもって本件減率査定の理由とすることはできない。更に、協調性がない、車掌としての列車扱い及び社内放送に対する取り組み姿勢が甘いとの主張は、これを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、同原告に関する本件減率査定の理由として有意なものは、同原告が列車内で発行する車内補充券の売上枚数がその所属する組において最下位であったことに尽きるといわざるを得ない。しかし、右の点は、同原告に対する本件減率査定の一事由にすぎないばかりか、他の者の車掌としての経験年数及び同原告と他の車掌の売上枚数の比較など具体的内容が明らかでないし、また、車内補充券の売上枚数の多寡は、その常務する列車や路線、時期によっても異なるものであるから、単純に枚数の比較をすることに意味があるともいえず、結局、右の点のみでは、本件減率査定には合理性がないものというべきである。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
3 原告山田禮正について
(一) <書証番号略>、証人津永泰彦の証言、原告山田禮正本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄に入社して以来、軌道係などとして線路の保守業務に従事していたが、昭和六一年八月から昭和六二年二月まで人材活用センターに配属され、同年四月被告に雇用された後は、広島保線区三次支区におけるいわゆる用地グループの職員として用地管理業務に従事していたこと、同原告は、用地グループが使用していた事務室の事務連絡のための掲示板に「団結」と書かれた赤いタオルを張り付け、同年五月一六日、上司からこれを外すよう注意されたにもかかわらず、「はい、考えておきます。」と答えてそのまま放置し、数日後漸く外したこと、同原告は、本件調査期間中、上着に組合バッジを着用して勤務していたこと、他方、同原告は、少人数の職場において各人の氏名は皆が知っているので氏名札を着ける必要はないとの考えから、本件調査期間中、ほとんど氏名札を着用しなかったため、上司からこれを着用するよう注意指導されたが、これに対し「幼稚園でも子供でもないのだから、別に着ける必要はない。」などと答えて拒否したことが認められ、同原告の右のような言動(ただし、組合バッジの着用行為は除く。)は、社員としての自覚に欠けた反抗的な言動というべきであり、これが他の社員に悪影響を及ぼしていたものと推認することができる。
被告は、同原告は業務全般に対して積極性がないと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるが、同原告の前記タオルや氏名札に関する言動に照らすと、同原告の勤務成績が不良であるとした被告の判断には合理性がある。
なお、組合バッジの着用行為が同原告に対する本件減率査定の理由とされた点については、前記のとおり、不当労働行為意思が存するというべきであるが、同原告の反抗的言動には著しいものがあるから、被告に不当労働行為意思がなければ同原告に対する本件減率査定もなかったであろうとは認められない。
したがって、同原告に対する本件減率査定には合理性が認められるから裁量権の濫用に該当せず、また、不当労働行為にも該当しない。
4 原告村上雅春について
(一) <書証番号略>、証人津永泰彦の証言、原告村上雅春本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄に入社して以来、軌道検査係などとして線路の保守管理業務に従事していたが、昭和六一年八月から昭和六二年二月まで人材活用センターに配属され、同年四月被告に雇用された後は、広島保線区におけるいわゆる用地グループの職員として用地管理業務に従事していたこと、同原告は、同年四月一〇日午後五時一八分ころ(同原告の勤務時間終了後)、広島建築区所属の社員であり未だ勤務時間中であった原告東城行宏(同原告の勤務時間は午後五時三八分まで)の所に行き、しばらく業務外の話をしていたこと、原告村上雅春は、本件調査期間中、上着に組合バッジを着用して勤務する一方、時おり氏名札を着用しなかったことが認められる。
被告は、同原告は業務全般に対して積極性がない、上司の業務上の指示などに対して反抗的態度を示すことが多いと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、同原告に関する本件減率査定の理由として有意なものは、勤務時間中であった原告東城行宏の所に行き、しばらく業務外の話をしていたこと、時おり氏名札を着用しなかったことに尽きるといわざるを得ない。しかし、右のうち原告東城と業務外の話をしていた点については、同原告の業務に支障を来すものとして配慮が足りないものというべきではあるが、同原告の勤務時間が終了する直前の短時間のものであったと推認されるから、些細なものであったというべきである。また、氏名札不着用の点については、時おりの不着用にすぎないから、これも些細なものというべきである。すると、右の二点のみでは、本件減率査定には合理性がないものというべきである。
したがって、原告村上雅春に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
5 原告東城行宏について
(一) <書証番号略>、証人毛保晃二の証言、原告東城行宏本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄に入社して以来、広島建築区における建築係などとして建物、設備、工作物の保守、点検、修繕業務などに従事していたこと、同原告は、昭和六二年五月一五日の勤務時間中、国労中央本部が発行した組合新聞を机の上に置いていたところ、上司からこれを机の上に置かないよう注意され、「はい、分かりました。」と返事をしたものの、結局、これに応じなかったこと、同原告は本件調査期間中、上着に国労の組合バッジを着けて勤務し、これを外すようにとの上司の注意に従わなかったことが認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。なお<書証番号略>には、DIMYマークの募集に対して同原告が応募しなかった旨の記載があり、<書証番号略>、証人毛保晃二の証言によれば、被告は、昭和六二年四月、ディスカバー・マイセルフの名称のもとに「自己を生かして会社に貢献しよう。」という運動を行い、そのイニシャルマークを社員に募集していたこと、同原告がこれに応募しなかったことが認められるが、これも単なる募集にすぎないから、同原告が応募しなかったことをもって、被告が主張するように業務全般に対して勤労意欲、積極性に欠けるとすることはできない。
更に、被告は、同原告は上司の業務指示・命令に対して、常に反論し反抗的態度をとるため職場の業務に支障を来すことがあると主張し、前記のとおり、同原告は、組合新聞に関する上司の注意に従わず、組合バッジを着用しないようにとの注意にも従わなかったのであるが、他に同原告が上司の業務指示・命令に対して反論し反抗的態度をとったことを認めるに足りる証拠はない。また、同原告が組合新聞に関する上司の注意に従わなかったことが職場の業務に支障を来したことを認めるに足りる証拠はなく、組合バッジの着用行為は、正当な組合活動であるから、これを外さなかったことを不当とすることもできない。したがって、被告の右主張には理由がない。
(二) 以上の次第であるから、同原告に関する本件減率査定の理由として有意なものは、同原告が組合新聞に関する上司の注意に従わなかったことに尽きるといわざるを得ない。しかし、右の点は、同原告に対する本件減率査定の一事由にすぎないばかりか、同原告は、勤務時間中に組合新聞を配布したものでも、組合新聞を閲読していたものでもないから、右の点のみでは、本件減率査定には合理性がないものというべきである。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
6 原告小松謙二について
(一) <書証番号略>、証人橋爪克洋の証言、原告小松謙二本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄社員であった昭和四四年以降、一貫して車掌業務に従事していたこと、同原告は、本件調査期間中、小郡車掌区宇部新川派出所に勤務していたが、車内補充券の発行枚数が同派出所に勤務する車掌の中で最下位であったこと、同原告は、昭和六二年五月二七日、車掌として乗務していた列車が宇部駅を発車するに際し、運転主任が一旦発車の合図をしたので、列車を発車させたところ、その直後に、運転主任が乗り遅れた旅客を乗車させるために赤色旗を示して停止の合図をしたが、停止手配をとらずに列車を進行させたことが認められる。
しかし、<書証番号略>、証人橋爪克洋の証言、原告小松謙二本人尋問の結果によれば、車内補充券の発行については、乗客一名につき一枚の補充券を発行する方法と、家族など数人の乗客に対しては一枚の補充券を発行する方法とがあり、同原告は、本件調査期間中、後者の方法をとっていたことが認められるから、車内補充券の発行に関する車掌の勤務成績を査定する場合には、その発行枚数のみならず売上金額をも考慮しなければ正当な判断とはならないものである。この点につき、被告は、同原告は収入金についても区内で最下位であった旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、原告小松謙二本人尋問の結果によれば、本件調査期間を含む昭和六二年四月から同年九月までの間の同原告の車内補充券売上金額は、前記派出所における全車掌の平均売上金額にほぼ等しいものであったことが認められる。すると、車内補充券の発行に関する同原告の勤務成績が不良であったとする主張には理由がない。
また、運転主任の停止合図に反して列車を進行させた点については、<書証番号略>、原告小松謙二本人尋問の結果によれば、同原告は、当該列車を発車させた後、後方から声がしたので振り向くと、改札口の方向から旅客一名が走って来るのを見つけ、運転主任が停止の合図を出したことにも気づいたが、列車の最前部がすでにプラットホームを外れた状況にあり、かつ、列車内は満員状態であったから、列車を急停止させることは危険であると判断して停止手配をとらなかったことが認められる。車掌が乗務中、運転主任らの発車合図及び停止合図に従うべきことは明らかであるが、右のような状況においては、列車を停止させることが危険であるとして停止手配をとらなかった同原告の判断が誤っていたと断じることはできない。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については前記のとおりである。
(二) すると、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであるから、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
7 原告細川完勝について
(一) <書証番号略>、証人楊井昭夫の証言、原告細川完勝本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄社員であった昭和四〇年以降、構内作業掛、構内係などとして車両の入換、連結、切離などの業務に従事していたが、昭和六二年二月営業職場に配置転換され、同年四月一日からは、小郡駅旅行センター分室において団体旅行の募集などのセールス業務を行い、同分室に勤務する社員の中では上位の販売実績を上げていたこと、同原告は、同月一五日の勤務時間中、執務場所を離れて組合事務所に立ち入ったこと、同原告は、本件調査期間中、上着に国労の組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
しかし、組合事務所への立入りに関しては、<書証番号略>、原告細川完勝本人尋問の結果によれば、同原告が組合事務所に立ち入った事情は、当日、もと小郡駅に勤務していて、当時は下関の清算事業団に所属していた社員が労金預金の解約金の支払を受けに来たので、担当役員であった同原告が組合事務所の金庫から解約金を出すために立ち入ったことが認められる。すると、同原告は、積極的な組合活動をするために組合事務所に立ち入ったものではなく、むしろ、前記のような事情のもとでは、執務場所を離れて解約金を取りに行くことも無理からぬことというべきであるから、この点をもって、本件減率査定の根拠とすることはできない。
被告は、同原告は売上の拡大等に自ら工夫し取り組む姿勢がなく、抗議を行うことのみに熱心で、業務全般については、極めて不熱心で積極性に欠けると主張するが、抗議を行うことのみに熱心であったことを認めるに足りる証拠はなく、また、同原告の販売実績は、小郡駅旅行センター分室の社員の中では上位にあったのであるから、業務全般について不熱心で積極性に欠けていたものとは到底認められない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、同原告に関する本件減率査定の根拠事由には何ら合理的な理由がない。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
8 原告阪倉一夫について
(一) <書証番号略>、証人楊井昭夫の証言、原告阪倉一夫本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄社員であった昭和五八年以降営業係業務に従事し、本件調査期間中は、一人勤務駅である本由良駅において、出改札、切符の販売、構内管理、清掃などの業務を行っていたこと、本由良駅においては、昭和六二年五月二七日、同駅勤務以外の社員数名が参加する臨時の除草作業が行われ、同原告は、公休日であったが同駅に本来勤務する者として、自主的にこれに参加したことが認められるが、被告が同原告について主張する前記イ、ロの事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
(二) すると、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであるから、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
9 原告竹中信二について
(一) <書証番号略>、証人奥田基博の証言、原告竹中信二本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、主に列車の窓枠や座席の取替作業などを行う車両検修業務に従事していたが、昭和六二年四月被告に雇用された後は、幡生車両所営業開発部においてビニールハウスの製作作業などを行っていたこと、同原告は、本件調査期間中、上着に国労の組合バッジを着用して勤務していたことが認められるが、被告が同原告について主張する前記イ、ロの事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであり、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
10 原告藤野雅俊について
(一) <書証番号略>、証人奥田基博の証言、原告藤野雅俊本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、主に車両の塗装作業などに従事していたが、昭和六一年七月から昭和六二年二月まで人材活用センターに配属され、同年四月被告に雇用された後は、幡生車両所営業開発部において朝鮮人参や霊芝などを栽培するための小道具の作成作業などを行っていたこと、同原告は、同月二八日の点呼終了後、訓話を行った上司に対し、「くだらん話をせず、重要な話をしたらどうか。」と言ったこと、同原告は、朝の点呼に出席する際、歩行中の喫煙が禁止されていたにもかかわらず、詰所から点呼場まで煙草を吸いながら歩行したことが本件調査期間中に二回あり、また、勤務時間中、仕事に必要な道具を取りに行くため一人で詰所に帰ったことがあったこと、同原告は、本件調査期間中、作業服に国労の組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
しかし、同原告が上司に対して「くだらん話をせず、重要な話をしたらどうか。」と言った点については、これが札を失した行為であることは明らかであるが、<書証番号略>、原告藤野雅俊本人尋問の結果によれば、当該上司の話の内容は、仕事とは関係のないものであって、歯ブラシは柔らかいものを使った方が良いといった内容であり、始業点呼時における訓話として適当でないものであったといわざるを得ないから、同原告のみを非難するには当たらないものというべきである。
勤務時間中に一人で詰所に帰った点については、被告は、同原告が昼食の準備をした旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、前記のとおり、仕事に必要な道具を取りに行くためであったと認められるから、この点を本件減率査定の根拠事由とすることは相当でない。
また、被告は、同原告は業務全般に対して積極性に欠ける、業務指示に対しても反抗的態度で勤労意欲に欠けると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、同原告に関する本件減率査定の理由として有意なものは、同原告が詰所から点呼場まで煙草を吸いながら歩行したことに尽きるといわざるを得ない。しかし、右の点は、同原告に対する本件減率査定の一事由にすぎないばかりか、点呼の時点では吸っていなかったものでもあり、些細なものというべきであるから、右の点のみでは、本件減率査定には合理性がないものというべきである。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
11 原告伊藤忠晴について
(一) <書証番号略>、証人奥田基博の証言、原告伊藤忠晴本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、車両の塗装作業などに従事していたが、昭和六二年四月被告に雇用された後は、幡生車両所営業開発部において本屋を作るための作業などを行っていたこと、同原告は、本件調査期間中、上着に国労の組合バッジを着用して勤務していたことが認められるが、被告が同原告について主張する前記イの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、同原告に関する本件減率査定の根拠事由には何ら合理的な理由がない。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
12 原告西岡広伸について
(一) <書証番号略>、証人奥田基博の証言、原告西岡広伸本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、幡生車両所において車両の塗装作業などに従事していたこと、同原告は、本件調査期間中、タイムカードの打刻を忘れたことが一回あったこと、上着に国労の組合バッジを着用して勤務していたことが認められるが、被告が同原告について主張する前記イの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであり、タイムカードの点については、打刻を忘れた回数からしても些細な事柄であることが明らかであるから、同原告に関する本件減率査定の根拠事由には何ら合理的な理由がない。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
13 原告森淳について
(一) <書証番号略>、証人礒部隆行の証言、原告森淳本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、線路の検査・補修業務に従事していたが、本件調査期間中、三原保線区竹原管理室の施設技術係の地位にあり、施設技術主任に次ぐ作業責任者として部下を指導する立場にあったこと、同原告は、昭和六二年四月一七日、たまたま安全帽(ヘルメット)のあごひもを締めずに保線作業をしていたため、助役からこれを締めるよう注意され、その場ですぐに締めたこと、同原告は、同年五月二六日の作業中、氏名札を紛失したため、氏名札を着けないで翌日の始業点呼に参加したこと、同原告は同月三〇日、枕木検査の作業責任者として現場に出たが、現場到着後安全帽を忘れて来たことに気づき、これを取りに帰ったため、同原告の作業の着手が約四〇分遅れたことが認められる。
被告は、同原告は業務全般に対して勤労意欲、積極性に欠け、上司から服装の整正を再三、注意指導された旨主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。
(二) 右の事実によれば、同原告において、やや不注意といえる点があったことは否定できないが、業務にそれほどの支障を来したものでもなく、これをもって「勤務成績が不良」とまでいうことはできない。
そうすると、同原告に対する本件減率査定には合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
14 原告隅正晴について
(一) <書証番号略>、証人藤井良一の証言、原告隅正晴本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、広島運転所で車両の検査・保守業務などに従事しており、本件調査期間中も同様の業務に携わっていたこと、同原告は、昭和六二年四月一五日、社員が仕事の合間に控える列車検査詰所の掲示板に国労の機関紙を掲示し、助役の指示により一旦これを取り外したが、同年五月一五日、再び国労の機関紙を掲示したことが認められる。
しかし、右各証拠によれば、前記掲示板は、国鉄時代に国労が作成・設置したものであり、本件調査期間中、被告としても右掲示板に労働組合の機関紙などを掲示すること自体は容認していたことが認められるのであり、同原告が国労の機関紙を掲示したことが不当とはいえず、この点を本件減率査定の根拠事由とすることはできない。
被告が同原告について主張する前記イ、ロの事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
(二) すると、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであるから、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
15 原告松永美砂男について
(一) <書証番号略>、証人津永泰彦の証言、原告松永美砂男本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、線路の検査・保守業務に従事していたが、昭和六一年九月から昭和六二年二月まで人材活用センターに配属され、同年四月被告に雇用された後は、広島保線区でレールの溶接業務に従事していたことが認められるが、被告が同原告について主張する前記イ、ロの事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
(二) すると、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであるから、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
16 原告峰岡敏夫について
(一) <書証番号略>、証人奥田基博の証言、原告峰岡敏夫本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、車両検修業務に携わり、主に文字を標記する塗装業務に従事していたが、昭和六二年四月被告に雇用された後は、幡生車両所営業開発部でビニールハウスの製作及び朝鮮人参の栽培作業を行っていたこと、同原告は、屋外作業に際して上着を脱いで作業をしたが、上着の下に赤色のシャツを着ていたため上司から注意されたことがあり、また、本件調査期間中、上着に国労の組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
しかし、赤色のシャツを着て作業をしたことをもって、同原告が社員としての自覚と職務の厳正に対する認識を欠くものと認めることはできず、他に同原告が業務全般に対する積極性を欠く又は社員としての自覚と職務の厳正に対する認識を欠くことを認めるに足りる証拠はない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであり、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
17 原告藤本明について
(一) <書証番号略>、証人礒部隆行の証言、原告藤本明本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、線路の保守管理業務に従事していたが、昭和六二年四月被告に雇用された後は、三原保線区本区におけるいわゆる用地グループの職員として線路沿線の草刈りや線路用地杭の製作、建植などを行っていたこと、同原告は、同年五月二八日の勤務時間中である午前一一時ころ、当日の業務である用地杭の製作業務に就かず、所定の作業場を離れて検修庫内に立ち入っていたため、礒部隆行副区長から注意されたこと、同原告は、同日の昼休みに右検修庫で休憩し横になり、午後の勤務開始時刻である午後一時になったので勤務に就くため立ち上がろうとしていたところ、そこに入って来た同副区長らから、直ちに業務に就くようにとの注意を受けたことが認められる。
被告は、同原告が同日午前一一時ころ検修庫に立ち入っていたのは休憩のためであり、同原告には勤労意欲がないのみならず、職場の規律に対する認識及び社員としての基本的な自覚に欠ける旨主張するが、前記各証拠によれば、同原告は、用地グループの他の社員とともに、用地杭を作成するための型枠の改良方法について相談をする目的で検修庫に立ち入っていたのであり、前記副区長は、同原告の立入目的を十分に確認することなく休憩のためと誤解して注意を与えたことが窺えるのであり、被告の右主張には理由がない。
被告が同原告について主張する前記イ、ロの事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
(二) 以上の次第であるから、同原告に関する本件減率査定の理由として有意なものは、同原告が昭和六二年五月二八日午後一時になっても勤務に就いていなかったことに尽きるといわざるを得ないが、勤務に就いていなかった時間は僅かなものにすぎなかったと推認されるから、右の点のみでは、本件減率査定には合理性がないものというべきである。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
18 原告浅野裕について
(一) <書証番号略>、証人小池智慧登の証言、原告浅野裕本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄時代の昭和五四年以降、呉駅の営業係として主に乗車券類の販売などを担当する出札業務に従事し、被告に勤務した後の本件調査期間中も、出札における最古参の社員として同様の業務に従事していたこと、同原告は、本件調査期間中、制服の襟に組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。被告は、同原告が、本件調査期間中にみどりの窓口を担当した際、担当者の氏名札の掲示をしばしば忘れ、また、現金を取り扱う際の基本である帳簿の記載と現金との確認を怠り、その結果、現金引継書と現金との間に不一致を生じさせたと主張するが、右事実を具体的に認めるに足りる証拠はない。
また、被告は、同原告は後輩等に対する指導性、協調性に欠けると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であるとする点については、前記のとおりである。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであり、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
19 原告豊田信文について
(一) <書証番号略>、証人小池智慧登の証言、原告豊田信文本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄時代の昭和五一年以降、広島駅及び呉駅の営業係として改札・集札業務などを担当し、本件調査期間中も、呉駅において同様の業務に従事していたこと、同原告は、本件調査期間中、制服の襟に組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
被告が同原告について主張する前記イの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであり、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
20 原告吉本建治について
(一) <書証番号略>、証人小池智慧登の証言、原告吉本建治本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄時代の昭和五四年以降、呉駅の営業係として改札業務や出札業務などを担当し、本件調査期間中も、呉駅において乗車券類の販売などを担当する出札業務に従事していたこと、同原告は、本件調査期間中、勤務時間内に食事の準備をしたことがあり、また、昭和六二年四月二三日、氏名札を着用しないで勤務したこと、同原告は、本件調査期間中、制服の襟に組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点について、前記のとおりである。
被告が同原告について主張する前記イ、ロの事実及び上司の了解を得ず社員の話合いにより勝手に勤務変更を行ったとの事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであり、氏名札不着用の点は一日だけのこと(本件調査期間中の前記以外の日に、氏名札を着用していなかったことを認めるに足りる具体的な証拠はない。)であるから、同原告に関する本件減率査定の理由として有意なものは、同原告が勤務時間内に食事の準備をしたことに尽きるといわざるを得ないが、<書証番号略>、原告吉本建治本人尋問の結果によれば、本件調査期間中は、これを禁止する指導が未だ徹底されていなかったものと推認されるから、右の点のみでは、本件減率査定には合理性がないものというべきである。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
21 原告福本正彦について
(一) <書証番号略>、証人小池智慧登の証言、原告福本正彦本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、昭和五六年三月高校を卒業し、同年四月国鉄に準職員として採用され、以後、構内係や営業係として勤務し、本件調査期間中は、呉駅において出改札業務のほか清算業務や各種案内業務などに従事していたこと、同原告は、本件調査期間中、上着に組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
被告が同原告について主張する前記イの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであり、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
22 原告塚本勝彦について
(一) <書証番号略>、証人岩清水則夫の証言、原告塚本勝彦本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、鉄道の電力分野の作業を担当していたが、昭和六一年八月から昭和六二年二月まで人材活用センターに配属され、同年四月被告に雇用された後は、広島電力区において、線路、電線、電力機器及び配電室等の保全、修繕、工事設計などの業務に従事していたこと、同原告は、休日であった昭和六二年五月一六日、異常時における連絡や応急処置などに対応するための日直として他の社員一名とともに勤務していたところ、昼休み(午後〇時から一時までの一時間)を挟んだ午前一一時四〇分ころから午後一時六分ころまでの間、広島駅構内にある社員厚生施設である理髪店に理髪に行ったこと、同原告は、本件調査期間中、上着に組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
被告が同原告について主張する前記イの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、同原告に関する本件減率査定の理由として有意なものは、同原告が異常時対応のための日直勤務時に理髪に行き持ち場をはなれたことに尽きるといわざるを得ない。ところで、異常時対応のための日直勤務者は、通常の勤務日以上に、異常事態に速やかに対応することができるような態勢で勤務すべきであるから、急を要しない理髪のような要件で持ち場を離れるべきでないことは明らかであるが、<書証番号略>、原告塚本勝彦本人尋問の結果によれば、同原告は、他の日直勤務者に行き先を告げたうえで理髪に行ったものであり、また、その理髪店は広島駅構内にあり、異常時には直ちに日直としての勤務場所に戻ることができる場所にあったこと、その間の一時間は昼の休憩時間であったことが認められるから、右の点のみでは「勤務成績良好でない」とまでいうことはできず、本件減率査定には合理性がないものというべきである。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
23 原告中村雄二について
(一) <書証番号略>、証人高橋正信の証言、原告中村雄二本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、構内係及び交通保安係として勤務していたが、昭和六二年四月被告に雇用された後は、広島駅の売店における土産物や弁当などの販売業務に従事していたこと、売場を視察にきた上司が「どうか、売れるかね」と質問したのに対し、「売れないので大儀ですね」と答えたこと、同原告は、本件調査期間中、上着に組合バッジを着用して勤務していたことがそれぞれ認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
被告が同原告について主張する前記イ、ロの事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。上司に対して「売れないから大儀だ」と答えたことをもって、勤労意欲に欠けるということはできない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであるから、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
24 原告西海信利について
(一) <書証番号略>、証人高橋正信の証言、原告西海信利本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、構内係及び運転係として勤務していたが、昭和六二年四月被告に雇用された後は、広島駅の売店における土産物や弁当などの販売業務に従事していたこと、同原告は、本件調査期間中、上着に組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
被告が同原告について主張する前記イの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであるから、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
25 原告吉本栄について
(一) <書証番号略>、証人高橋正信の証言、原告吉本栄本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、構内作業掛及び運転係操車担当として勤務していたが、昭和六二年四月被告に雇用された後は、広島駅における輸送係操車担当として車両の入換業務や誘導業務に従事していたこと、同原告は、本件調査期間中、上着に組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
被告が同原告について主張する前記イの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バツジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、被告が同原告に対する本件減率査定の理由として主張する事由は、いずれもその事実が認められないか減率の理由として相当でないものであるから、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められず、裁量権の濫用に該当する。
26 原告久保将樹について
(一) <書証番号略>、証人高橋正信の証言、原告久保将樹本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、国鉄入社以来、構内係及び構内指導係として勤務していたが、昭和六二年四月被告に雇用された後は、広島駅の売店における土産物や弁当などの販売業務に従事していたこと、同原告は、長めの頭髪のまま勤務したり、皮膚が弱いため髭を十分に剃らないで販売業務に従事したことがあったこと、同原告は、本件調査期間中、上着に組合バッジを着用して勤務していたことが認められる。
フレッシュ二四キャンペーンと称する増収活動などに非協力的であったとする点については、前記のとおりである。
被告が同原告について主張する前記イ、ロの事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。
(二) 組合バッジの着用行為を本件減率査定の理由とすることに合理性がないことは、前記のとおりであるから、同原告に関する本件減率査定の理由として有意なものは、頭髪及び髭の点に尽きるといわざるを得ない。しかし、右の点は、同原告に対する本件減率査定の一事由にすぎないばかりか、些細なものというべきであるから、右の点のみでは、本件減率査定には合理性がないものというべきである。
したがって、同原告に対する本件減率査定には、合理性が認められないから、裁量権の濫用に該当する。
以上の次第であるから、原告山田禮正に対する本件減率査定には、合理性が認められるから裁量権の濫用に該当せず、また、不当労働行為にも該当しないが、その余の原告らに対する本件減率査定には、いずれにも合理性が認められないから裁量権の濫用に該当する。
しかして、本件夏季手当の支給に際しては、昭和六二年六月一九日に締結された協定により、基準額が同月一日現在における辞令面による基本給、都市手当及び扶養手当の月額の合計額に2.1を乗じて得た額とされ、かつ、原告らは、本件調査期間において、いずれもその期間率が零であり、減給、戒告、訓告のいずれの処分も受けていなかったのであるから、原告山田禮正を除く各原告は、同年七月三日に支給されなかった右基準額の五パーセント相当分の各金額につき、本件夏季手当の支払を求め得る権利を有するものと認められる。
五よって、原告山田禮正の本訴請求には理由がないからこれを棄却し、その余の原告らの本訴請求には理由があるからこれをいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官浅田登美子 裁判官古賀輝郎 裁判官榎本孝子は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官浅田登美子)
別紙
一覧表
原告氏名
所属
職名
国労役員名
金額
藤本敬三
広島車掌区
車掌
広島支部再建委員
二万六三一八円
山田禮正
広島保線区
三次支区
施設技術係兼営業開発部事業課(課員)
広島支部執行副委員長
二万五三九九円
村上雅春
広島保線区
施設係兼営業開発部事業課(課員)
広島第二支部書記長
二万〇二七六円
東城行宏
広島建築区
建築係兼営業開発部事業課(課員)
広島建築区分会再建委員長
一万八四五九円
小松謙二
小郡車掌区宇部新川
派出所
車掌
小郡車掌区宇部
新川分会書記長
二万六四四九円
細川完勝
小郡駅
営業係
小郡支部再建委員長
二万三五六二円
阪倉一夫
小郡駅
営業係
一万七四六一円
竹中信二
幡生車両所
車両技術係兼営業開発部事業課(課員)
幡生工場支部再建委員長
二万三七三三円
藤野雅俊
幡生車両所
車両係兼営業開発部事業課(課員)
幡生工場支部再建委員
一万九五二〇円
伊藤忠晴
幡生車両所
車両係兼営業開発部事業課(課員)
一万八〇七四円
西岡広伸
幡生車両所
車両係
一万六四一六円
森淳
三原保線区
施設技術係
一万九六三五円
隅正晴
広島運転所
車両技術係
広島運転所分会執行委員
二万四九九三円
原告氏名
所属
職名
国労役員名
金額
松永美砂男
広島保線区
施設係
一万六六五四円
峰岡敏夫
幡生車両所
車両係兼営業開発部事業課(課員)
幡生工場支部書記長
一万九六二五円
藤本明
三原保線区
施設係兼営業開発部事業課(課員)
三原保線区分会副分会長
二万二〇六〇円
浅野裕
呉駅
営業係
呉支部副委員長
二万二九六三円
豊田信文
呉駅
営業係
呉駅連合分会分会長
二万四〇一三円
吉本建治
呉駅
営業係
広島地本青年部長
一万九一五二円
福本正彦
呉駅
営業係
呉地区分会書記長
一万四五八四円
塚本勝彦
広島電力区
電気技術係兼営業開発部事業課(課員)
電気連合分会再建委員長
二万七五八二円
中村雄二
広島駅
営業係兼営業開発部事業課(課員)
広島駅分会再建委員
一万七五一五円
西海信利
広島駅
営業係兼営業開発部事業課(課員)
事業所分会執行委員
一万六六一一円
吉本栄
広島駅
輸送係
広島駅分会書記長
二万四一六六円
久保将樹
広島駅
営業係兼営業開発部事業課(課員)
一万四〇六二円